「ぁっ…んっ、利通さんっ...!」
「ッ...!小娘ッ!!」

・・・

昨日の逢瀬の後、初めて大久保さんと一つに結ばれた。
大久保さんとの逢瀬の帰り道、二人並んで眺めた京の街の景色。
私は絶対に忘れない...

・・・というか、眺めている内に心地良い秋風に吹かれて、
何だか眠たくなって、そのまま寝てしまっていた。
次に瞳を開けた時には、藩邸の天井。
真横には大久保さんの端正で綺麗な顔があって・・・。

思わずあげてしまった声に、大久保さんは軽く口角を上げて微笑み、
次の瞬間には私は大久保さんの下敷きになっていた。


「まだまだ、甘いな小娘。油断し過ぎだ。」


既に私は大久保さんに身を委ねている形になっていた。
ぼーっと頭の痺れる大久保さんの甘い香りに誘われて、私はもう、動けずにいた。

互いに呼吸を荒くして、名前を呼び合う。
「とし、みちさん...。」
「何だ、小娘...。」
そんな時間が、私はとても幸せに感じた。

・・・

朝になり、着物の肌蹴た大久保さんの隣で横になっている。
すると、寄り添っているとガラリと襖を開ける音がした。


「大久保さあ、朝餉のご用意が…。」


…止まった時間は、きっと一瞬。でも私には、すごく長く感じた。

「…半次郎、用件は分かった。そこを退け。」
乱れた着物を直し、利通さんは昨晩の様に軽く口角を上げ、そう言った。
…昨日の利通さんが頭に浮かぶ。
妖しくて、でも美しくて。
…また、顔が紅くなってる気がする!

「ほれ半次郎、小娘は昨晩の私との秘事を思い出し、一人で燃えている。」
「「なっ…⁉」」半次郎さんと私の声が重なった。

そんな私達を他所に利通さんは続ける。
「こんな幼い顔した娘でも、案外良い声で啼くものだぞ。」
高らかに笑いながら、私を抱き寄せる。

半次郎さんは“もう見ていられない”という雰囲気で、
部屋から出て行ってしまった。

「ふん…。」小さく溜息をつくと、利通さんはまた横になる。
グイッと腕を引っ張られて、私も横に倒れ込む。

「…やっと、邪魔者が消えたな小娘。」
昨晩耳元で囁かれたみたいに言われてしまうと、
身体の力がふっと抜けたように甘い気持になる。

「お前は、耳が弱いのか。…覚えておいてやる。」
そんな利通さんの言葉に思わず反抗する。

「大久保さん、そんなのっ、覚えなくて良いです!」
私がそう言うと“お前は私の名を覚えるべきだ。”と突っ込まれてしまった。

うっ…言い返せない…。
“利通さん”だなんて、普段言えないもん。
心の中ではいつも利通さん。
でも…そう考えると、二人とも似たようなもので…。

「まぁそんな思い詰めた顔をするな小娘。さあ、朝餉に行くぞ。」
いつものように、颯爽と着物を着こなした利通さんは
私の返事を待つこと無く、居間へ向かった。


朝食を食べ終わると、利通さんに“久々の来客がある。”
と、お菓子の買い出しを頼まれた。
この時代に来て、今更ながら和菓子の美味しさに目覚めている。
ケーキとかとは違うけど、優しい味がする。

「小娘、“軽羹”は忘れるな。他の物はこの際構わぬ…」

かるかん…というのは鹿児島が発祥のお菓子。
大久保さんは薩摩出身だし、かるかんは好物みたい。
私も、前に利通さんに貰った事があるけれど、
お饅頭のしっとりさがふわり…とした感触に変わった感じ。
とっても美味しい!

「忘れる訳ないじゃないですか!」
私は元気良く返事をして、彼から貰った振袖に着替えて出かけた。

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行きつけの和菓子屋さんの近くに来ると、お店の前から見慣れた後ろ姿が見えた。

桂さんと、武市さん...かな。
何だか二人の組み合わせって珍しい...。

「桂さん、武市さん、こんにちは。」
私の声に二人が一斉に振り返る。...何だか、綺麗な二人。

「おや、娘さんこんにちは。」
「君も、お遣いですか。僕も龍馬に頼まれた所で...。」
「武市君と同じ、私は晋作に駄々を捏ねられたよ。
どうしても此処の軽羹が良いと聞かなくてね...。」

「は、はぁ。」二人も、色々大変だな。
高杉さんも龍馬さんも行動派だと思ったんだけど...。

「どちらにせよ娘さんに会えたので、減るものは無いかな。」
そう言う桂さんを武市さんは一瞬横目で見て、"君は..."と尋ねられる。

「君は、大久保さんの遣いですか。色々、苦労しているのでは?」
「はい、大久保さんに頼まれました。大久保さんも此処の軽羹が良いって...。
他の物を忘れてでも軽羹だけは買って来いって言ってました!」

私が笑いながらそう言うと、桂さんと武市さんは顔を見合わせて、少し困った顔をした。

「あぁ、娘さん...。その"軽羹"何だがね。」
「実は、君が来る少し前に売り切れてしまって、僕も買えなかったんだ。」
「えっ、そうなんですか...。」
やっぱり、このお店の軽羹は美味しいからなぁ。売り切れちゃったか...。

「うーん、武市君、どうしたものか。」
「我々で作るというのは如何でしょう。
料理の得意な桂さんなら顔も広いでしょうし、多少の製法くらい教えて貰えるのでは?」
「えっ?えっ?」
知らない内に話が進んでる!思わず二人の顔を交互に見る。

「あぁ、それは良いかもしれないね。早速、女将さんに聞いてみよう。」
「宜しく頼みます。」武市さんの言葉と共に、
桂さんはお店の奥へと入って行ってしまった。
「えっ、武市さん、良いですよ私。大久保さんには説明しますから...。」
そんな私の言葉を遮るように、武市さんは言う。
「いや、君が大久保さんにとやかく言われる必要は無い。小一時間で出来るだろう。」
そう言うと、武市さんは優しく微笑んだ。

うっ、どうしよう。一応利通さんに許可を取らないと不味いよね...。

「あ、あのっ私、大久保さんに許可取ってきます!」
驚いた顔で武市さんは私を見たけど、一心不乱に走っていた。


暫く、下を向いて走っていると…ドンッと誰かにぶつかってしまった。

「うわっ⁈」 「ッ…?」
“すみません!”と顔を上げると、そこには驚いた顔をした利通さん。

「えっ、あっ、大久保さん⁉」
すると大久保さんは、私の腕を引っばって胸元に引き寄せた。
「大久保さん…?」
「…遅い。」
「えっ…、大久保さん?」

...そんな遅かったかな?

「…小娘、もう、お前が出てから一刻だ。」
・・・一刻・・・一時間?

「…一刻、ですか?」
思わず訊き返す私に、利通さんは私の首元に顔を埋め“ああ”、と頷いた。
「…ふふっ。」利通
さん少し過保護かも…、
そう思ったら、何だか可笑しくなって笑えてきた。
「…何を笑っている小娘。」
ちょっぴり不機嫌そうに私を見る利通さんを、、
すこし、本当に少しだけ“可愛い”と思ってしまった。

体制を変えて利通さんさんに抱きつく。今度は私が利通さんの胸元に顔を埋める。
「…心配掛けてごめんなさい、利通さん。」
すると大久保さん…利通さんは、“分かれば良い。”と私を抱きしめる力を強めてくれた。

「…私は、お前の事になると少しばかり過保護になってしまうようだな。」
利通さんは、少しだけ頬が紅くなっていた。


「お熱いのう・・・。」
後ろから、聞きなれた声がした。
「りょ、龍馬さんっ!?」
・・・うわぁ、久々だぁ。結構会ってなかったもんね。
嬉しさで龍馬さんに飛び付こうとする。
「りょうまさーん!!・・・?」
"にしし"と笑って両手を広げている龍馬さん。
でも、あれ...、身体が進まない。

ふと上を見上げると、利通さんはさっきまでの照れた表情とは裏腹に、
いつも通りの少し意地悪そうな顔で私を抱き寄せていた。

「ふっ、坂本君、君には悪いがこの娘は既に私色に染められている。」…利通さん色?
しかもすっごい得意そうな顔してる。
明らかに龍馬さんに喧嘩売ってるよ...。
「何じゃ大久保さん、こん子が大久保さんに心を惑わされているというのか。」
龍馬さんが利通さんを少し睨む。

「ああ、そうだ。小娘とは昨晩繋がった。」
「はっ?何言ってるんですか利通さん!...あっ...!」
「そうじゃ大久保さん、いくらおんしでも悪い冗談はよせ。」・・・「利通さん...?」
「小娘さん、今おんし"利通さん"言うたか?」

ま、間違えた・・・。いつも皆の前では大久保さんで通してるのに・・・。
しまった、これは恥ずかしい。顔がどんどん暑くなってく。
すると利通さんは今朝、半次郎さんに笑って見せたみたいに、また高らかに笑ってこう言った。

「くっ、はははは!本当にこの娘は飽きない。...、
どうした坂本君、顔が火を吹いているように紅いぞ。」
ふと龍馬さんを見ると、多分、怒りで身体をわなわなと震わせてる。

「大久保さん、おんしっ!」と利通さんの胸倉を掴もうとした、その時。
「龍馬、もう諦めろ。」龍馬さんの肩を、後ろからやって来た武市さんが叩いた。
「なんじゃ、武市っ!わしはこん子を...!」
"救いたいんじゃ!"と言いそうになった所で、武市さんの横にいる桂さんが続ける。

「いや、彼女は大久保さんと相思相愛だ。残念だが坂本君、諦めた方が無難だろう。」
利通さんは、勝ち誇った表情をしている。
そんな姿でも見とれてしまう私って...。

「娘さんを見ろ坂本君、大久保さんに釘づけじゃないか。
彼女は大久保さんに軽羹を土産にしようとしたんだが、生憎売り切れでね。
どうせなら一緒に作ろうと思ったのだが、残念ながら彼女は大久保さんを選んだようだね。」
・・・そんなつもりじゃなくて、一緒に作る為に伝えようと思っただけなんだけど...。
やっぱり利通さんに軽羹を食べてもらいたかったから。

しばらく、事の前後の話をしていると...。

「...まあ構わぬ。どうせこの後会合がある。軽羹を作るのはその後で良いのではないか?」
そんな利通さんの言葉に私を含め、皆が驚いた顔で利通さんを見る。
「こん子の影響を大分うけちょるの...」
龍馬さんが少し切なげに呟くと、利通さんは"坂本君、何か言ったか?"と鋭く睨み、龍馬さんを威圧する。

「では私と小娘は先に行く。...遅れないようにな。」
それだけ言うと利通さんは魅せつけるように私の肩を抱いて、歩いていく。
私も、利通さんと足を揃えるように付いていく。

・・・

利通さんの私を抱く力が強くなっていく。
...少し、痛い。

「利通さん...?」そんな私の言葉を遮るように、
利通さんは少し強い口調で言った。

「どういう事だ、小娘。」
思わず、訊き返す私を無視して利通さんは私の顎を親指で軽く上げた。

「お前、桂君や武市君とそんな事しようとしていたのか。」
いつもの優しい利通さんの目とは違っていて、出逢った時の...
まるで鷹が獲物を狙うような鋭い瞳で私を見つめた。

「ッ、利通さん!」
そんな強い瞳に負けそうになって、私も強気で挑む。

「私は、利通さんに食べて欲しかったから。だから、一緒に手伝ってもらおうと思ったんです!」
でも、利通さんには私の言葉は届いていないようだった。

「...先程の話を聞く限りでは、提案したのは武市君でお前は付いて行っただけのように聞こえたが?」
「...!」
利通さん、そんな風に思ってたんだ。
確かに話がどんどん進んじゃって、取り残されてはいたけれど、
私は利通さんが好きだと思ったから...どうしても食べて貰いたかったから。
だから、作ろうと思ったのに。
私の気持、伝わってないのかなぁ。

何だか、さみしい。私だけが利通さんの事を想っているみたいで...。
いや、利通さんなりに接してくれているのは分かるの。
でも...。

気づけば、私の目からは熱い雫がぽろぽろ零れていた。
「泣いているだけじゃ、分からん。」
利通さんのその言葉が、いつになく意地悪に聞こえた。
「利通さん、酷いよ!」
私は利通さんの手を振り払って、一人で藩邸に走った。

空は、厚い雲に覆われて、どんどん暗くなってゆく。
さっきまでの秋晴れは、嘘だったみたいに。
藩邸は、すぐそこにある。
でも、私の心は利通さんのいるはずの藩邸とは、すごくすごく離れている気がした。


"ッ!、小娘!!"

耳に残る、利通さんの声。一瞬、戻ろうかとも思った。
でも、あまりにも悲しくて戻る気になれなかった。

雨がぽつぽつと降り始めて、折角利通さんが仕立ててくれた着物が濡れてしまう。

私、本当に馬鹿だ。

髪に刺している簪も、着ている着物も、
さっきまでの暖かな心も全部、利通さんがくれたものなのに。

・・・早く、藩邸に行かなきゃ。
私は利通さんに謝りたい一心で藩邸まで走った。



藩邸に着くと、高杉さんが門の辺りを見回してしていた。

「...た、高杉さん?」
私の声に反応し、高杉さんは"面白娘!!"
と焦った顔でこちらに向かって走ってきた。

「大久保が、大久保さんが斬られたぞ!!」

・・・
・・・・
・・・・・?
...えっ、今なんて言ったの?
高杉さん、言っている意味が分からないよ。

「何ぼーっとしてる!?早く行ってやれ!!」 高杉さんに腕を引かれる。
...大久保さん、利通さんが斬られた?何で、どうして利通さんなの?

「利通さんッ!!」利通さんの部屋へ駆け込むと、
利通さんは半次郎さんに手当てをして貰っていた。

「小娘...。」
名前を呼ばれ、一瞬びくっとする。
...私のせいで、利通さんが怪我してしまった。
慌てて利通さんの隣に近付くけれど、さっき私を見つめていた瞳は、
あんなに強かった瞳は、弱々しく私を見つめていた。

「利通さんっ、ごめんなさ「謝るな。」」
利通さんが私を制した。
「えっ...?」利通さん、どうして。
「お前が謝る事はない。私が悪い。お前を、傷つけてしまった。」
「違うよ利通さん、私が我儘言ったから!だから、こんなに酷い怪我をッ...!」

もっと、謝りたいのに。もっと、気持を伝えたいのに。
涙と嗚咽が邪魔をしてしまって、上手く喋れない。

「ごめんなさい、利通さん...。」辛うじて謝ることが、出来た。
すると利通さんは不機嫌そうに私を睨む。
「小娘、お前は人の話を聞いているのか?私は、"謝るな"と言ったんだ。」
"聞こえているのか?"と横になった身体を起こそうとするけど...。

「ッ...!」全身の痛みに顔を歪め、起こしかけた身体が倒れてしまう。
「利通さんッ!!」駆け寄って支える。
・・・!
ふと、利通さんの長い指が私の目元を拭う。

「泣くな小娘。お前に泣き顔は似合わない。」

利通さんは、続ける。


「私は、ずっと後悔していた。お前を泣かせるくらいなら、
いっその事未来へ帰してしまう方が小娘の為なのではないかと。
...だが、昨日お前は言ったな。"貴方は、私に帰ってほしいのか"と。そして、"利通さんと一緒にいたい"と。」
黙って頷く私を、利通さんは優しくあやすように話す。

「その時、改めて決意した。私はお前を、己の人生を掛けて守ってゆくと誓う。
...ならばお前も誓え。私と、大久保利通と一生を歩むと。」
・・・気づけば、部屋には二人。半次郎さんは、もういない。

「この時代だ。今日、分かっただろう。何時、私が斬られるか分からない。
...まぁ、そんな事で死ぬような野暮ではないがな。」

利通さん。
私は、ずっと。ずっと利通さんと共にいる。
命が朽ち果てるまで、利通さんと一緒に歩き続けるよ。
「利通さん。」私が呼ぶと、
利通さんは意思を固めた表情で私を見る。私も、利通さんを見つめる。

「私、大久保さん、...利通さんに一生付いていきます。もう、恐れない。
だって利通さんと二人で居られるから。もう、怖いものなんて無いです。」
泣きそうになるのを堪えて必死で笑顔を繕う。だって、利通さんに笑われちゃうもん。

...でも、やっぱり抑えきれなくて、少しずつ、私の頬を涙は伝う。
「泣くなと言っているだろうが。」そう言うと、利通さんは優しく私を抱きしめた。
こんなに酷い怪我をしているのに、何で、利通さんはここまで優しいのだろう。

「利通さん、力を抜いて…。いつも傍に居てくれて有難うございます。
今度は、私が利通さんを抱きしめる番です。」
私は、背に回されている利通さんの手をそっと退けて、
今度は私が大久保さんの背に手を回す。

「小娘...。」
「愛しています、利通さん。」
こんな時だもん、素直に気持を伝えたい。
「ああ、私もだ。」
利通さんは頭を撫でながら言ってくれた。
「うっ...、とし、利通さん...。」
私弱い、また泣いてしまいそう。

「またか、仕方無い。思う存分泣け。...その方が落ち着くだろう。」
その言葉に、何か細い糸が切れてしまったように、私は大泣きした。
その間、大久保さんはずっと背中をさすっていてくれた。
それは、まるでお父さんの温もりのように暖かくて...。私はもっと泣いてしまう。

---
そんな私の泣き声を聞きつけた、高杉さんを始め、
今日会合の予定があった龍馬さん・武市さん・桂さんが一斉に駆けつける。

「おいっ、どうした!?」
「大久保さんっ、大丈夫ですか!?」
「まさか"軽羹"からこんな事になってしまうとは...。」
「大久保さん、大丈夫じゃがか!?」

次々と出てくる言葉に戸惑いながらも、私と利通さんは静かに抱き合っていた。
・・・。
暫く、私達を見ていた龍馬さんは...。
「なーんじゃ、またかのぉ。」と呆れつつ部屋を去ってしまった。
武市さんと桂さんは"その様子なら怪我も直ぐに治りますね"と言って出て行くけれど、
高杉さんだけは"俺も中に入れろ!"って叫んでいる。

すると利通さんは高杉さんをキッと睨み、「高杉君、少しは遠慮をしろ。病人の部屋だぞ。」と言う。
「抱き合っている病人なんて何処にあるかー!!」と叫びながら、高杉さんは走って出て行ってしまった。
・・・高杉さんが走った後には、透明な雫が靡いているのが見えた...。
「...高杉さん、もしかして泣いてましたか?」思わず聞いてしまう私に、
利通さんは"放っておけ。"と薄っすら笑う。

---突然「小娘。」と低い声で呼ばれて、真面目な顔をした利通さんが私の方を見ていた。
「はいっ...!」やっぱり、利通さんのこういう表情には緊張しちゃう。
「何だ...そんな身構えするな。」
そう言って私の手を握る。

「小娘、お前は先程誓った。大久保利通と一生を歩むと。」
「はい。」利通さんの目を見て、しっかり答える。

「近い内に、祝言を挙げる。」

しっかり見据えられて利通さんの瞳。頭に響く、利通さんの言葉"祝言"...。
「えっ---!...んっ!?」
"大きな声を出すな。"耳元で囁かれ、唇に人差し指を当てられる。
「す、すみません...。」
"ふぅ...。"と軽く溜息をつくと、利通さんはいつもの様に口角を上げ、少し意地悪そうに笑った。

「小娘、嬉しいか?」
もっと、意地悪な事言われると思ってたから、
利通さんの優しい言葉に少し拍子抜けする。
「...嬉しいです。でも、驚きました。まさか、このタイミングとは...。」
利通さんにも私の驚きを伝える。

「たいみんぐ?」...あっ、つい元の言葉が出ちゃった。
「この時期に...って事です。」意味を言うと、利通さんは納得した様子。
「この時期って、今以外に何時がある。」

「いや、利通さんの事だから、お布団の中じゃなくて、
もっと綺麗な景色とか見ながら言うのかなぁって思ってました。」
「..."布団の中"一番良い空間だろう?ましてやこの部屋には私とお前、二人しかいない。」
“これほど素晴らしい場所はない。”とでも言わんとばかりに妖しい雰囲気。
かぁーっと顔に熱が上がる。だって、昨日の利通さんを思い出すから。
…あんなに息の乱れている利通さんを見るのは、初めてだったし。
何か、一人で恥ずかしい事ばっか考えてる気がする!

一人で頬を押さえていると利通さんが言った。

ふっ、可愛い奴め。

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