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「おいには、おはんさあを…おはんさあを幸せには出来もはん。
おいはこん手で幾度となく人を殺めてきもした。
…知っちょる通り、護衛なんて名目でごわす。
大久保さあもそれを認めてはくれちょりもした。
じゃっどん、斬った方にしか分からないこともありもす。」

「半次郎さん・・・」


半次郎さんの黒く、束ねられた髪が風に棚引く。
風のおかげでやっと空を見上げた私は、
今にも雨が降りそうなほど、淀んだ空に気が付く。

「……未来へ、戻りやんせ。
もう二度とおはんが悩むことはなか、苦しむこともなか。
…そいが一番の幸せでごわんど。少なくとも、おいはそう思うちょりもす。
…さあ、早よう…早よう行きやんせ!!おいが、
また一人犠牲を増やす前におはんは帰りやんせ!」

「そんなっ、半次郎さ---」

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"半次郎さん"

そう呼び終える前に、私の身体は薄れていく
届かない、もう、貴方を追うことが出来ない



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”半次郎さん!”
”これはこれは・・・大久保さあが世話になっちょりもす。”
”お世話になってるのは私の方ですよ!”
”いんや、そうとも限りもはん・・・”

”半次郎!無駄口を叩くのも大概にしろ。”
””・・・・・・・。””

”ふふっ・・・”
”言われてしまいもしたなあ!ははははっ!”
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”半次郎さん・・・?”
”っ・・・!!”
”半次郎さん、待って!!”
”・・・おいは、おはんに合わせる顔はなか。”
”はんじ、ろうさん・・・。”
”行きやんせ。今、おいと顔を合わせたら碌なことにはなりもはん。”
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”それでも、貴方が好きだよ---”
"娘・・・さあっ!"
"それでもじゃない。貴方が、半次郎さんが好きなんだよ。"
”おいは・・・!”

”ふん、随分無粋な事をしているな。いい加減、認めたらどうなんだ?”

”大久保さあっ・・・!”
”小娘を、お前は好いているのだろう・・・?”

””っ・・・!””
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消えゆく目路の中、閉じてしまった瞳には、確かに貴方が映る。
ねえ、最後に笑ったのはいつ?

作り笑顔だった貴方が...半次郎さんが、
心からの笑顔を私に見せてくれたのは、一体いつが最後だったの?

戻れない時の中、私はもう一度だけ目を開く。

後ろからは車の音、街の音が騒がしいほどに響く。
でも、私の目に映るのは---





『娘さあ...。』





さっきまでの束ねられた黒い髪が、解けて風に揺れている。
でもきっと、解けてしまったのは綺麗な髪ではなくて、
半次郎さんの心。

その証拠に、ほら。

PHOT00000000000392A6_500_0.jpg

半次郎さんの涙に触れようと、伸ばしたこの手は、
もう影にしかならない。

---届かないはずの手のひらに、とても温かい、
でも凍ってしまいそうに冷えた涙が、一粒。


「さようなら。半次郎さん。」



「また、『会う日まで---』


おいは、おはんを

私は、あなたを


心から、想い続けています---

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